ワンビ株式会社 代表取締役社長 加藤 貴
日本国内で会社経営している人は、約386万人。
日本人の総人口は1億2,500万人なので、32人に1人が社長ということになります。(※平成30年「平成28年経済センサス‐活動調査(確報)」)
そして、その経営者たちが経営する会社が、毎年8,000社以上倒産している現状があります。
その原因は、業績不振、過小資本、売掛金回収難など多岐にわたりますが、そのなかでも会社を経営していくための運転資金、つまり現金がなくなることによる倒産は多くのケースに当てはまります。
一方で、国が、全国の中小企業を応援していると新聞やニュースでよく見ます。しかし、実際には何をしてくれているのか、どこに聞けばいいのか、わからないことが多いのではないでしょうか。私も、ワンビを起業した時に多くの失敗をして無駄なお金を使ってしまいました。
今回は、そうした失敗を踏まえて運転資金についてお話しします。もう、13年前のことなので、社会インフラが改善されていることも多いかもしれませんので昔話だと思って聞いてください。
新会社法で資本金1円の株式会社設立が可能に
ワンビは、2006年5月に会社登記をして設立しました。当時は、「新会社法」が始まったばかりで、会社を立ち上げるには良くないタイミングでした。
私は、出費を少なくしようと、定款や申請資料などを図書館で借りた本を見ながら申請書類を準備しました。しかし、それらの本は旧会社法の内容だったため、新会社法の内容にすべて書き直しとなってしまいました。そのため、何度も法務局に足を運ばなければなりませんでした。
新会社法の主な変更点
1.資本金1円の株式会社が設立可能
2.有限会社を廃止され、株式会社または合同会社
3.株式会社の機関設定の自由度が向上(取締役、監査委員会等)
2と3については、別の機会にコラムを書かせていただきますが、雑誌やテレビなどで話題になって大きなニュースになっていた資本金1円から株式会社が設立できるという変更についてお話したいと思います。
資本金1円企業のデメリット
当時は資本金1円で起業できるという言葉が先行して、起業ブームが起こりました。実際に起業した私からすると、正しくは1円からでも株式会社を設立できるということで、実際に1円で起業すると、あらゆる場面で困ることが発生します。
デメリット①:機関や銀行からの融資が受けられない
融資を受ける場合、その基準として資本金が大きな要素になります。融資を受ける場合には自己資金がどれぐらいあるのかが重要で、資本金を含めて事業の健康状態を確認されたときに不利になります。
デメリット②:会社の信用がない
資本金の金額は会社の信用評価となります。取引先とお金のやり取りをする場合には信用調査が実施され、その評価が低ければ銀行の口座登録を拒否されてしまう場合があります。銀行口座がつくれない場合、仕入れであれば現金入金を行えば取引してくれることもありますが、一番大きな問題としては購入したお客様が入金する銀行口座がないと事態になることです。
会社の資本金と運転資金の関係
会社設立の費用は規模に合わせた半期(できれば1年)の運転資金を資本金として用意し、翌年も会社を継続していくためには、会社は、下記のように利益を出して運転資金を持っておくことが必要になります。
1.売上-経費=利益を出す
2.利益に応じた税金を払う
3.税金を払って残ったお金が翌年の運転資金
運転資金とは、資本金、売上(売掛ではなく回収した現預金)であり、そこから原価、販売管理費など経費を差し引いたものが、キャッシュフローになります。普段の生活をしてお金を使っていると、現金だけなのでピンとこないかもしれませんが、会社を経営していくにはこれが一番重要になります。
よく新聞などで“黒字倒産”という言葉を聞いたことはないでしょうか。
黒字なので、どうして会社がつぶれてしまうのだろうと、不思議に思うかもしれませんが、会計上は黒字で会社が好調に見えても、お金の流れを間違えると簡単に倒産してしまいます。
黒字倒産とは、将来入金されるはずの資金があって会計上黒字だったとしても、一時的にでも、家賃、社員の給料、仕入れ、外注などの支出が、会社の持っている現金よりも上回り、払うべきお金が払えなくなって倒産してしまうことを言います。
お客様に商品を売掛金(60日後に入金)で販売するために、買掛金(30日後に支払い)で仕入れを行った場合、30日後の買掛金の現金を用意できなければ倒産してしまうことになります。
ここで通常は資本金を運転資金にするのですが、1円しかないと、他から現金を用意したり、支払いを待ってもらったりして、一時的に回避しなければなりません。これが続けば、いずれは経営が破綻してしまいます。
運転資金を調達する方法の種類
このように会社は、売上を上げることと同じぐらい、運転資金を持っておく必要があります。運転資金を調達する方法はいくつかあります。
出資金を募る
創業者以外から資本金を出してもらう方法です。知り合いや取引企業などから資本金を出してもらい増資する方法以外にも、ベンチャーキャピタルや個人投資家(エンジェル投資家)から出資してもらう方法があります。
ただ、単にお金が足りないという理由で出資するところはありません。お金を出すことで、将来、会社が成長すると納得してもらう必要があるため、事業の現状と成長性、今後の事業計画などをきちんと提示することが必要となります。
融資してもらう
一般的なのが銀行から借り入れをすることですが、それ以外にも、「新事業育成資金」「女性、者/シニア起業家支援資金」「中小企業経営力強化資金」などの融資を行っている日本政策金融公庫からの融資、自治体からの制度融資、信販会社などのビジネスローンなどがあります。
その他
ビジネスコンテストなどに応募して入賞して副賞をもらう手もあります。ワンビも創業時はいくつかのビジネスコンテストに出まくって、そのお金を運転資金にしていた時期もありましたが、最近は応募者が多くてなかなか入賞するのも難しいようです。
補助金・助成金の有効な活用方法
直接の運転資金調達とは若干違いますが、公的機関の助成金や補助金の申請をして認可されれば、事業支援の大きな助けになります。
本来必要で購入しなければならないものを補助金、助成金で購入して、出費を少しでも抑えたり、新事業に対する必要経費として活用できたり、自治体の補助金・助成金は応募期間などが限られていますが、中小企業にとって非常にありがたいものです。
IT導入補助金
助成金は要件を満たせば、誰でも受給することができます。一方で、補助金は要件を満たした上で審査を受ける必要があり、必ずしも受給できるわけではありませんが、補助金の中で活用しやすく比較的受給しやすい制度にIT導入補助金があります。
IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等のみなさまが自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、みなさまの業務効率化・売上アップをサポートするものです。
・補助対象者
中小企業・小規模事業者等(飲食、宿泊、卸・小売、運輸、医療、介護、保育等のサービス業の他、製造業や建設業等も対象)
・補助対象経費
事務局に登録されたITツールが補助金の対象です。
ITツールとは、システム化が不十分な業務分野に導入されるソフトウエアと、関連するオプション、役務からなり、補助事業者の労働生産性向上に資するものとします。
IT導入支援事業者は、ITツールを事前に登録しなければなりません。
申請されたITツールは、外部有識者と外部審査委員会によって審査が行われ、登録の採否を決定します。
・補助金の上限額・下限額・補助率
A類型 40万~150万円未満 | B類型 150万~450万円 | 補助率 1/2以下 |
2019年IT導入補助金の公募期間は、5月27日(月)~6月28日(金)までとなっています。昨年度ですが、申請して会計システムや出退勤システムの導入で経費の大幅な削減となって、経営の助けになりました。
まだまだ間にいますので、一度検討してみてはいかがでしょうか。
その他にも多くの補助金・助成金がありますので、その一部を紹介します。
創業助成事業(東京都)
都内の開業率を上げるために創業希望者に対して支援。
ものづくり・商業・サービス高度連携促進事業
中小企業・小規模事業者が、生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援。
軽減税率対策補助金
増税に伴い、中小企業・小規模事業者の方々が、複数税率対応レジの導入や受発注システムの改修などを行うにあたり、その経費の一部を補助。
小規模事業者持続化補助金(商工会管轄)
商工会管轄地域内の小規模事業者を対象とした販路開拓補助金。
訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助金
訪日外国人旅行者に対し手ぶらで快適な旅行環境を提供する「手ぶら観光」を推進。
※紹介した補助金・助成金は公募期間があるため自治体のホームページ等を確認ください。
まとめ
今回は、会社の運転資金に関してお話ししました。運転資金を調達するには、銀行などの機関で融資を受ける以外にも、自治体の補助金・助成金を活用することも大きな助けになります。
会社を上手に経営していくためにも、あらゆる情報を入手して、様々なことにチャレンジしてみてください。補助金・助成金に関しては、審査が下りなかったとしても、次の補助金・助成金を意識することで、自分の会社にあった制度が見つかるかもしれません。